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高校野球あれこれ 第87号

高校野球「強豪校」の寡占化がさらに…“格差是正”には、「甲子園大会」の見直しも必要か

 

“顔ぶれの固定化”

1月27日に第95回選抜高校野球の出場校を決める選考委員会が行われ、2023年の高校野球シーズンが徐々に近づく時期となった。今年も中心となりそうなチームは、昨年選抜の覇者である大阪桐蔭(大阪)と、東北勢悲願の夏の甲子園優勝を果たした仙台育英(宮城)の2校だが、ここ数年を振り返ってみると甲子園で勝ち進む高校の顔ぶれは、かなり絞られている印象を受ける。昨年夏の甲子園出場校に春夏通じて初出場となる学校がなく、選抜の“前哨戦”と言われる秋の明治神宮大会で、決勝戦が2年連続して大阪桐蔭広陵(広島)の対戦となったのも、“顔ぶれの固定化”を象徴していると言えそうだ。

 

2000年代までは、済美(愛媛、04年春)をはじめ、駒大苫小牧南北海道、04、05年夏)、清峰(長崎、09年春)佐賀北(佐賀、07年夏)のように、突然強くなって、一気に頂点まで駆け上るケースがあった一方で、2010年代に入ると、こうした例は見られなくなっている。

 

 夏の甲子園「100回記念大会」となった18年。吉田輝星(現・日本ハム)を擁した金足農(秋田)が、“カナノウフィーバー”を巻き起こして、決勝まで駒を進めたものの、大阪桐蔭に大敗を喫し、優勝旗には届かなかった。

 

中学野球の大会に足を運ぶ、高校のスカウト担当

 では、このような上位進出校の“寡占化”が進む背景には何があるのだろうか。日々、多くの高校に視察に訪れているプロ球団のスカウトは、その理由について、以下のように話してくれた。

 

「やはり、スカウティングの面が大きいですよね。以前は、監督が1人で担っていたスカウティングですが、いまは『スカウト』という肩書のスタッフがいたり、エリアでスカウトの担当を分けていたり、組織的に動く高校が増えています。甲子園出場の常連校は、強豪の中学野球のクラブチームと繋がりが強いですし、有望な選手であれば、中学2年の段階で進路が決まります。あとは、選手に関する情報量が以前に比べて、圧倒的に増えましたよね。以前は、選手の情報は、草の根的に人づてに伝わっていましたが、今は、すぐにネットで広がります。それは選手側にとっても同様です。『どの高校が、どんな指導者でどのような方針なのか』といったことも分かるようになりました。一方、保護者は『甲子園に出て、プロや名門の大学を目指すなら、この高校だ』ということを、早い段階から考えるようになってきています。そうなると、どうしても力のある選手が集まるチームは限られてきますよね。高校野球が、ある意味“プロ化”しているということだと思います」(関東地区担当スカウト)

 

 強豪校が、有望な選手を集めるのは今に始まったことではない。だが、このスカウトが話すように、スカウティングが“組織化”していることは間違いない。

 

 筆者が、中学野球の全国大会や有力チームが出場する試合に足を運ぶ際には、ほぼ100%の確率で高校野球関係者の姿を見かける。また、ある高校のスカウト担当は、例年12月に小学生を対象にした選抜メンバーで行われている「12球団ジュニアトーナメント」に出た選手が、中学でどのチームに進んでいるかを全てチェックし、その後を追いかけているという話を聞く。チーム強化のために、“金の卵”を早くから追いかけるのは、プロ野球のスカウトだけではない、ということだ。

 

「球数制限」の影響も

 組織化が進んでいるのは、スカウティングだけではない。かつては監督が1人で担っていた選手の指導についても、より専門的な知識を持つコーチやトレーナー、外部のスタッフが行うチームが増えている。もともと能力の高い選手をより高度なトレーニングで鍛える……こんなチームに、いわゆる“普通の高校”が勝つのは、簡単ではなくなっている。

 

 これに加えて、「強豪校」と「そうでない高校」の差をさらに広げたのが、一昨年から導入された「球数制限」である。1人の投手が投げられるのは、1週間で500球までという比較的緩い制限ではあるものの、前出のスカウトは、「球数制限の影響は、決して小さくない」と話す。

 

「実際に球数の制限いっぱいで、ストップがかかるケースは稀ですが、甲子園で優勝しようと思ったら、複数の投手ではないと無理です。甲子園はおろか、地方大会でも、組み合わせや日程によっては勝ち抜くことが厳しいですよね。今は、エースが登板過多になると、世間の批判が集中しやすいですし……。そうなると、どうしても、選手層の厚いチームが有利になります。一方、打者も力がついており、金属バットとなると、プロに行くような投手でも抑えることは簡単ではありません。最低でも2人、できれば3人か4人は、力のある投手がいるチームでないと、甲子園で上位は狙えない時代だと思います」(前出の関東地区担当スカウト)

 

甲子園を目指せるチームは全体の1割から2割程度

 前述したように18年には吉田輝星が大車輪の活躍を見せたが、そのような“スーパーエース”で勝ち進む時代は、完全に終わりを迎えたといえる。これに加えて、24年からは金属バットの規格が“低反発”なものに変わる。規格が変更されると、飛距離が出にくくなり、打撃技術の差が打撃の結果に出やすくことから、「強豪校」と「そうでない高校」の格差は、より広がることになりそうだ。

 

“格差”といえば、昨年夏の千葉大会の2回戦では、県内強豪校の千葉学芸が、82対0(5回コールド)で、広域通信制高校「わせがく」に圧勝する試合があった。ラグビーのような「82点」という歴史的な点差を巡って、大会の在り方にあらゆる意見が噴出したことが記録に新しい、今後、このような「力の差があり過ぎる試合」が増える可能性も高く、こうした試合は、選手の安全や健康面を考えても、良くないことは明らかだ。

 

 ある高校野球の指導者は、「力の差があり過ぎる試合」を防ぐような方法も考えるべきではないかと話した。

 

「伝統を考えると、『甲子園大会をなくす』というのは現実的ではなく、あれほど影響力が大きい大会があることで、競技力の向上になっている部分も確かにあると思います。一方で、『トップレベルの高校』と、いわゆる『普通の高校』の差はどんどん開いており、同じ“高校野球”という土俵で戦うのは、無理があるケースが増えています。現実的に、甲子園を目指せるチームは全体の1割から2割程度で、残りの8割のチームは“甲子園を目指す行為”が目的ではないでしょうか。そうであれば、社会人野球の『企業チーム』と『クラブチーム』のように、レベルによって頂点を決める戦いの“スタート”を変えるというのも、一つの方法だと思います。今までと同じやり方にこだわっていると、トップレベルのチームも、そうでないチームも不幸なのではないでしょうか」

 

高校野球は変化できるか

 前出の指導者の話を補足しよう。“スタートを変える”というのは、どういう意味なのか。社会人野球の都市対抗本選を目指す予選は、一次予選で企業登録ではない「クラブチーム」によって行われ、それを勝ち抜いた「クラブチーム」が、二次予選に進んで「企業チーム」と戦う。「企業チーム」と「クラブチーム」には力の差が大きく、社会人野球では、説明したような形式を採用している。

 

 高校野球で、社会人野球の大会形式を導入することは困難だとはいえ、甲子園大会の形式を、抜本的に見直す作業は進めてもいいのではないか。こうした議論になると、“古き良き高校野球”が失われるため、「野球留学を制限すべき」、「球数制限は不要だ」といった意見が出てくる。ここで出た案のように、選手の安全を守りながら、より多くの選手が納得する形に、高校野球が変化していくことを望みたい。