昨年秋の近畿大会は名門の活躍が目立った。優勝した大阪桐蔭を始め、準優勝の報徳学園(兵庫)、4強の智弁和歌山龍谷大平安(京都=タイトル写真)と豪華な顔ぶれで、4校すべてが春夏の甲子園で優勝している。まずはこの4校のすさまじいまでの成績をご紹介しよう。

 龍谷大平安=103勝(歴代2位)優勝4回(春1、夏3)

 大阪桐蔭=72勝(同9位)優勝9回(春4、夏5)

 智弁和歌山=70勝(同10位)優勝4回(春1、夏3)

 報徳学園=60勝(同16位)優勝3回(春2、夏1)

 4校を合わせると305勝、優勝20回となる。特に大阪桐蔭智弁和歌山はすべての勝ち星が平成以降というから恐れ入る。報徳学園も初出場が昭和36(1961)年夏なので戦後、かなり経ってからの甲子園デビューだった。その点、龍谷大平安は歴史が長い。

古都の名門・平安はかつてのエースがコーチに

 平安の創部は明治までさかのぼり、初出場は昭和2(1927)年で、戦争を挟んで古都・京都を代表する名門として君臨し続けている。春は42回目、春夏合わせると76回目の出場はいずれも全国最多で、「古豪」という言葉は平安のためにあるようなものだ。

 

大きなゼスチャーで指示を与える平安の原田監督。センバツでは優勝、夏は準優勝と、低迷していた名門を完全復活させた(筆者撮影)
大きなゼスチャーで指示を与える平安の原田監督。センバツでは優勝、夏は準優勝と、低迷していた名門を完全復活させた

 

 昭和50年代からしばらく低迷期はあったが、原田英彦監督(62)が就任すると見事に復活し、平成9(1997)年夏に川口知哉投手(43=元オリックス)の好投で準優勝した。川口氏は昨春からコーチに就任し原田監督を支えているが、「川口がいなければ現在の平安はない」と言わしめるほどの救世主になった。原田監督との「二人三脚」でセンバツでの活躍は必至だろう。

記録ずくめの大阪桐蔭・西谷監督は64勝

 大阪桐蔭は言わずと知れた高校球界の頂点に君臨するチーム。平成3(1991)年に春夏連続で甲子園初出場を果たすと、夏には一気に頂点まで駆け上がった。その後しばらくはPL学園などの壁を破れずにいたが、西谷浩一監督(53)就任後の20年ほど前からは激戦・大阪でトップに立つ。

 

大阪桐蔭の西谷監督は甲子園優勝8回を誇る。またプロ12球団すべてに卒業生を送り込むなど、球界全体に与えた影響は計り知れない(筆者撮影)
大阪桐蔭の西谷監督は甲子園優勝8回を誇る。またプロ12球団すべてに卒業生を送り込むなど、球界全体に与えた影響は計り知れない

 

 甲子園での成績もうなぎ登りで、これまでに西谷監督だけでも64勝を挙げている。2度の春夏連覇が史上初めてなら、今春に挑む2度目のセンバツ連覇も達成したチームはなく、まさに記録ずくめのチーム、監督だ。全国の中学球児の憧れであり、全国のチームから目標にされているが、これだけ勝てば当然のことだろう。

初勝利まで5大会連続初戦敗退だった智弁和歌山

 智弁和歌山も歴史は浅い。甲子園初出場こそ昭和60(1985)年春だが、初勝利まで5大会連続初戦敗退を喫していた。しかし平成5(1993)年夏に初勝利を挙げると、翌春には優勝するなど一気に勢いがついた。前任の智弁学園(奈良)では投手中心のチームをつくり上げていた高嶋仁・前監督(76)は一転、強力打線を擁して全国の強豪に挑み、強烈なインパクトを与えた。地元選手を中心に1学年10人という「少数精鋭」で密度の濃い練習を重ね、パワー野球を開花させると、近年は本格派投手を軸にバランスのいいチーム構成となっている。

 

プロ経験のある智弁和歌山の中谷監督(左から二人目)は、現役時代に主将として夏の甲子園優勝。監督としても一昨年夏に優勝を果たした(筆者撮影)
プロ経験のある智弁和歌山の中谷監督(左から二人目)は、現役時代に主将として夏の甲子園優勝。監督としても一昨年夏に優勝を果たした

 

 高嶋氏退任後に就任した中谷仁監督(43)は、平成9(1997)年夏の優勝時の主将で、阪神にドラフト1位指名された経験を持つ。就任早々の一昨年夏に優勝するなど、指導者が代わってもチームの勢いに陰りは見えない。

多くの卒業生が活躍する地元の名門・報徳

 報徳学園は地元を代表する名門として圧倒的な存在感がある。甲子園からは直線距離で3キロほど。専用の寮やグラウンドはなく、全国クラスの名門と比較すれば、決して恵まれた環境とは言えない。62年前、初出場した夏の1回戦で延長11回表に6点を失いながらも同点に追いつき、12回にサヨナラ勝ちして「逆転の報徳」の歴史がスタートした。

 

勝利の瞬間、喜びを爆発させる報徳の選手たち。プロで活躍する卒業生も多いが、指導者の道を歩むOBも少なくない(筆者撮影)
勝利の瞬間、喜びを爆発させる報徳の選手たち。プロで活躍する卒業生も多いが、指導者の道を歩むOBも少なくない

 

 多くの卒業生がプロだけでなく大学、社会人でも活躍していて、指導者に転身する人も少なくない。前述の大阪桐蔭・西谷監督が代表格だ。高校時代のしっかりした教育が生かされている証拠だろう。長く率いた永田裕治監督(59=静岡・日大三島監督)の後を受けた大角健二監督(43)にとっては、実質、初めて甲子園へ導いたチームになるが、伝統の投手を中心にした守りだけでなく攻撃陣にも得点力があり、上位進出も有望だ。

新監督の履正社にとっても重要な大会

 これら4校に加え、履正社(大阪)にも注目したい。全国的には大阪桐蔭のライバルとして認識されているが、甲子園では22勝と、大きく水を開けられている。こちらも35年率いた岡田龍生監督(61)が東洋大姫路(兵庫)の監督に転じ、多田晃監督(44)にとっては甲子園初采配となる。

 

大阪桐蔭と「大阪2強」を形成する履正社は、多田監督(手前のマスク姿)に代わって積極的な走塁が目立つようになってきた。センバツで新たな姿を見せてくれそうだ(筆者撮影)
大阪桐蔭と「大阪2強」を形成する履正社は、多田監督(手前のマスク姿)に代わって積極的な走塁が目立つようになってきた。センバツで新たな姿を見せてくれそうだ

 

 大阪桐蔭の独走を阻止するためにも、簡単には負けられない。今後の大阪を占う意味でも重要な大会になるだろう。さらにトップ10入りしているチームでは、通算75勝で7位の東邦(愛知)、73勝で8位の広陵(広島)も出場する。両校ともセンバツに強い伝統があり、名門、強豪の競演が記念大会を盛り上げてくれそうだ。