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高校野球あれこれ 第95号

センバツ名勝負伝説】

あと1人からの非情のドラマ!

まさかのサヨナラエラー

 

まさかのイレギュラーで……

 

1989年4月5日決勝  東邦(愛知)3x-2上宮(大阪)

 

 元号が平成にあらたまり、初めての大会だった。

 

 1989年4月5日、決勝のカードは、前年センバツ準優勝の東邦(愛知)と、近畿大会で敗れギリギリの出場ながら、超高校級スラッガーと言われた元木大介らタレントぞろいの野球巧者・上宮(大阪)。優勝候補同士の戦いとなった。

 

 試合は上宮・宮田正直、東邦・山田喜久夫の両先発が好投を見せ、両軍のハイレベルな守備陣の力もあって4回まで互いにゼロ行進となる。試合が動いた5回も、表に上宮がスクイズで1点を取れば、東邦もその裏、すぐ同点に追いつく。互いに譲らぬ戦いは1対1のまま延長戦に突入した。

 

 迎えた10回表、上宮の攻撃。四番・元木のレフト前もあって二死一、二塁とし、打席には五番の岡田浩一が入る。やや甘めの内角球を岡田のバットがとらえると三塁線への強烈な打球。東邦の三塁手が横っ飛びするが、グラブに当たった打球はファウルグラウンドを転々。この間、ついに上宮が待望の1点をつかんだ。

 

 しかし、本当のドラマはここからだった。

 

 10回裏、宮田が先頭打者に死球。当然、バントのケースだが、東邦・阪口慶三監督が選んだのは、強攻策だった。打球は突っ込んできた一塁手の脇を抜け、強攻策は成功かと思われたが、二塁手がつかみ併殺。阪口監督はこのとき「あ~あ、これで優勝は遠のいたな」と覚悟したという。

 

 次の打者がストレートの四球を選んだあと、二番の高木幸雄を阪口監督が笑顔で送り出すと、高木もまた笑顔を浮かべた。「鬼の阪口」とも言われた指揮官だったが、前年のセンバツで敗れた際、自らの厳しい表情が選手を追い込んでいるのでは、と感じ、笑顔を意識するようになったという。高木は笑顔に笑顔でこたえ、三遊間の内野安打で一、二塁とする。

 

 さらに続く三番・原浩高が初球をとらえた打球は詰まりながらもセンター前へ。センターの好返球もあり、本塁のタイミングは微妙だったが、わずかに足が入りセーフ。同点だ。

 

 プレーは途切れなかった。この間、打者走者・原が二塁を狙ったが、一塁走者の高木が二塁を回ったところで立ち止まり、二塁ベース付近で2人が立ち往生になる。すぐ捕手から三塁手種田仁へ送られ、さらに二塁手・内藤秀行に継がれたが、その球がショートバウンドし、内藤が後逸。それでもさすが堅守の上宮。右翼手・岩崎勝己がしっかりカバーに入っていた。ところが……。

 

 ボールが岩崎の前で、まさかのイレギュラー。後逸したボールは、フェンス近くまで転がっていく。岩崎が必死に追うが、その間に東邦がもう1点を追加し、逆転サヨナラ勝ちだ。

 

これが野球です。誰の責任でもありません

 

 上宮の山上烈監督は自らに言い聞かせるようにつぶやく。四番の元木は「僕は山田君には勝ったけど、夏に向かってもう一度チャレンジです……」。

 

 言葉は涙で途切れた。