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高校野球あれこれ 第181号

「低反発バット」で大きく変わった高校野球の勢力図! 

本塁打激減→強豪敗退で甲子園に異変が起こった!

 
夏の甲子園は京都国際が関東一を破り、初優勝を果たした

 夏の甲子園京都国際が、京都勢として68年ぶりの選手権優勝を果たした。春の近畿大会で優勝していたとはいえ、レベルの高い近畿勢にあっては、大阪桐蔭報徳学園(兵庫)、智弁和歌山の陰に隠れて、優勝を予想した人は多くなかったはずだ。これら強豪の早期敗退と京都国際の優勝は、今春から導入された「低反発バット」と密接に結びついていて、勢力図をも激変させた。

公式戦本塁打ゼロで優勝した京都国際

 「今年は能力の高い選手がいない。公式戦本塁打もゼロ」とは、優勝した京都国際の小牧憲継監督(41)の今チーム評だ。その「打てない」チームは、エース・中崎琉生(3年)と西村一(2年)の両左腕が、1回戦から準々決勝までの4試合を交互に完投した。継投を前提とした「複数投手」制を推奨する高校球界では、異例の起用法と言える。2投手とはいえ、ローテーションを確実に遂行した形だが、監督の言うように、打線が相手投手を圧倒した試合はない。6試合のチーム打率は.324だが、長打は二塁打が10本だけ。逆に単打は56本だった。得点の合計が24、失点は6で、1試合当たり4得点1失点と実にわかりやすい。

滋賀学園はバントで確実に走者を進める

 また、夏の大会で初めて8強に進んだ滋賀学園も、低反発バットにマッチした野球だったような気がする。4試合のチーム打率は.353で、8強進出校で最も高く、1試合平均の犠打も5で、最も多い。逆に盗塁は0で、確実に走者を進める野球に徹していた。さらに見逃せないのが内野守備で、多胡大将岩井天史(ともに3年)の二遊間を軸に、相手の好機をことごとくつぶしていた。今チームの課題だった投手の与四球が、本大会で少なかったのも躍進の一因だろう。そして青森山田に0-1で敗れた準々決勝では、無死二塁で送りバントを2度失敗したのが響いたが、バントが勝敗を分ける典型的なシーンとも言えた。

長打に頼らないチームが活躍

 もともと滋賀の使用球場(皇子山、彦根)は、近畿でも本塁打が出にくいことで知られ、秋、春の近畿大会でも滋賀開催時は本塁打が少ない。滋賀学園山口達也監督(53)は以前から、「滋賀はスラッガーが育ちにくい。球場が投手優位だから」と話していた。近畿では兵庫に次いで、いわゆる「スモールベースボール」の傾向が強く、近江を始め、強豪校はどこもバントが巧みだ。長打力が看板の大阪桐蔭智弁和歌山とは対照的な攻撃を身上とするが、京都国際も例年と比べれば、明らかにパワフルなチームではなかった。甲子園のグラウンドは広い。しばらくは長打に頼らず、走者を確実に進められるチームが活躍しそうだ。

早期敗退した近畿3強豪の敗因は?

 逆に、近畿勢で活躍必至と思われた強豪は、相手投手を攻めきれず敗れ去った。報徳は、大社(島根)に初回、足でかき回されて2失点し、そのまま逃げ切られた。投手が軸のよく似たチームカラーだったため、早々に主導権を渡したのが痛かった。智弁和歌山は、霞ケ浦(茨城)の2年生左腕・市村才樹(2年)の「超遅球」に幻惑され、8回にようやく2本塁打で追いついた。強打が伝統の同校らしい展開だったが、1点取れば勝ちの9回の無死1塁、さらにタイブレークでも走者を進められれなかった。大阪桐蔭に至っては、小松大谷(石川)の好投手・西川大智(3年)の丁寧な投球に的が絞れず、わずか92球で完封を許した。アウトの半分以上が凡飛で散発5安打。最初の失点が併殺崩れの失策によるもので、最後までチームの課題を克服できなかった。バットから放たれる打球が、去年までとまったく違い、終盤まで相手投手のペースを崩せなかったことが、共通の敗因と分析する。

新バットの野球で重要なことは?

 上記の近畿強豪校の敗因、今大会の活躍校の試合運びを集約すると、以下のような傾向がわかる。低反発バットの野球では長打が期待できない分、機動力や犠打で走者を進め、確実に得点する。そして、投手を含めた守りで、相手に主導権を渡さない。重要になるのは、攻撃面では犠打と走塁。守備面では、四球を与えない投手と、要所での守備力(特に内野手)。センバツと比べると、打撃技術そのものは向上していたが、それでも芯で確実にとらえない限り、外野手の頭上を越す打球は明らかに少ない。これは本塁打数の激減(昨年の23本→今年は7本)からも明らかだ。全体の打率も.286から.253に大きく低下した。

「皆勤校」大社は41年前のセンバツでも8強

 そして今大会、最も脚光を浴びたのが大社の大躍進だった。全国に15校しかない第1回の地方大会から出場を続ける「皆勤校」のひとつで、93年ぶりの8強入りで話題となった。もっとも筆者は、41年前のセンバツで8強入りした大社を甲子園で見ているので、そこまでのブランク感はなかったが、強豪私学全盛の中、伝統校の復活はうれしい限りである。

大社の野球は全国の公立でもできる

 エース左腕・馬庭優太(3年)は4試合で35回を投げ、与四死球はわずか5。早稲田実(東東京)に延長11回、タイブレーク勝ちした3回戦は今大会最高の熱戦で、勝敗を分けたのが、11回の先頭で代打起用された安松大希(2年)の絶妙なバント(記録は安打)だった。藤原佑藤江龍之介(ともに3年)の1、2番はともに俊足で、相手守備陣にプレッシャーを与え続けた。与四球の少ない投手レベルの高い犠打と走塁は、強豪私学でなくとも実践できる。新バットによって、全国の公立校にも光がさしたと言っていいだろう。