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高校野球あれこれ 第262号

今大会から導入の「DH制」は全般的に低調!攻撃面での効果は限定的も、投手のパフォーマンスは向上!

 近畿勢同士の決勝となったセンバツは、大阪桐蔭智弁学園(奈良)に7-3で快勝し、4年ぶり5回目の優勝を果たした。春夏通算でも10度目の甲子園大会優勝で、高校球界の頂点に君臨していることを証明したが、今大会から導入された「DH=指名打者制」を生かす戦い方に、他校との違いが見えた。

投手が主力打者のチームは、使い方が難しい

 前回の出稿で、DHをうまく使ったことが、大阪桐蔭優勝の大きな要因と書いたが、大会の終了をうけて、この制度の傾向や課題について触れてみたい。そもそもDHは、投手に代わって打撃専門で出場する選手を指す。プロ野球のパ・リーグでは長く使われていて、来季からセ・リーグでも導入される。また、高校野球の上のアマ・カテゴリーとなる大学、社会人でも採用されていることから、導入が決まった次第。議論の真っただ中にある「7回制」が圧倒的反対多数なのに比べ、DHに関しては、選手の出場機会が増える、投手の負担減につながる、などの理由で、すんなり受け入れられた。ただ、依然として投手が主軸を打つチームが多い高校野球では、使い方が難しい。

「大谷ルール」は制約が多い

 こうした「エースで4番」を救済するのが、いわゆる「大谷ルール」で、ドジャースの大谷翔平(31)が持つ投打のずば抜けた能力を、最大限に発揮させるためにつくられた。DH兼投手で先発出場し、降板後もDHとして試合参加できる画期的なルールではあるが、高校生が使うには、制約が多い。まずこのルールは、先発投手にしか使えない。一度マウンドを降りてしまえば、投手としては交代したことになるので、再登板はできない。「同じ役割につくことはできない」と記されているため、別の守備位置についても、マウンドに戻ることはできないのだ。こうした制約のため今大会、このルールでの出場は、たった1例だけだった。

光星の北口が唯一の大谷ルール出場選手

 その唯一の例が、初日に登場した八戸学院光星(青森)の北口晃大(3年=主将)で、崇徳(広島)との1回戦に、4番DH兼投手で出場。試合は延長タイブレークの死闘となったが、北口は10回を完投し、打っても3打点を挙げた。結局、完投したため、DHとして残ることにはならず、結果的にはこれまでの4番投手と同じ役割に終始した。続く滋賀学園との2回戦で、北口は4番DHで出場。接戦となったため、5回からDHを解除してマウンドに上がり、1点差で勝った。中京大中京(愛知)との準々決勝も2回戦同様の4番DHで、勝ち越された直後から登板して4回を無失点に抑えたが、1点差で逃げ切られた。このように、今大会で大谷ルールを使いこなした例はなく、夏へ持ち越されることになった。

DH=強打者に最も近かった大阪桐蔭

 パ・リーグで、強打者や外国人選手を起用するDHのイメージに最も近い起用法だったのが、優勝した大阪桐蔭だった。秋から4番を打つ谷渕瑛仁(3年=タイトル写真)を全ての試合で4番DHに据え、谷渕は期待に応える活躍を見せた。谷渕の活躍がなければ、優勝までたどり着けたかどうか。もっとも、谷渕の名誉のために付け加えるなら、彼は内外野、どこでも守れる。それだけ大阪桐蔭の選手層が厚い証でもあった。しかし今大会を見る限り、高校野球におけるDHのイメージは、プロ野球とはかなり違うというのが率直な感想だ。

今大会のDHの平均打率は1割8分台

 1回戦でDHを使わなかったチームが32校中、6校あり、そのうち日本文理(新潟)と大垣日大(岐阜)は2回戦では使った。打順は6番以降の下位が多く、これは戦略としてまだまだ定着していない証拠で、打線で言えば「つなぎ役」といったところか。実際にDHで出場した選手の平均打率は1割8分台で、全体の平均打率より5分ほど低かった。極端な話、投手がそのまま打っていてもさほど変わらなかったような気もする。大谷の恩師である花巻東(岩手)の佐々木洋監督(50)は、「投手か打者か、どちらかに絞ることで可能性を奪ってしまうことになる」と話し、今チームの主戦投手の萬谷堅心赤間史弥(ともに3年)が中軸を打つため、DHを使わなかった。初戦敗退に終わったが、勝ち進んでいれば、大谷ルールを使っていたかもしれない。甲子園の常連校ですら、短期間でDHを使いこなすのは、至難の業だったのだろう。

DHのおかげで投手のパフォーマンスが向上

 今大会を通しての平均打率は.235で、昨年の.270を大きく下回り、「新基準低反発バット」導入後、最初の大会となった一昨年とほぼ同じだった。これはDH制と関連がないわけではない。つまり、DHで攻撃参加しなくなった投手のパフォーマンスが向上したと言えるのだ。実際に取材してみても、「ベンチで配球をじっくり考えられた」「投球に集中できた」という答えが返ってきている。準優勝した智弁のエース・杉本真滉(3年)は、秋の奈良大会の天理戦で2本塁打を放った強打者でもある。それでも智弁の小坂将商監督(48)は、杉本を投球に専念させた。強敵との対戦が続いても杉本のパフォーマンスは落ちず、球威も球のキレも衰えなかったのは、DH制のおかげだろう。まずは、DHがもたらす効果として、攻撃面より、投手が受ける恩恵の方が大きかったと言える。

夏には大谷ルールの使用が増えるか

 そして迎えるDH最初の夏。今大会ナンバーワンの「二刀流」・山梨学院菰田陽生(3年=主将)は、長崎日大との初戦に2番一塁手で出場し、本塁打を放ったものの、守備の際に骨折。「暑い夏なら(大谷ルールを)使うかも」と話していた吉田洸二監督(56)は、「(菰田を)DHにしておけばよかったかも」と残念がった。それくらい、このルールは使い方が難しい。ただ、吉田監督の言うように、夏は割り切って大谷ルールを使うチームが増えると予想している。さらに、投手が投球に専念できることが、試合時間の短縮につながっていることも見逃せない。夏はさらにその傾向が強まるだろう。あとは戦略面で、そのチームのカラーに合った使い方ができれば、チーム力の向上にもつながるはずだ。高校野球は毎年、メンバーが変わる。DHについては、様々なパターンの使い方が出てくるだろう。