今年は改革元年?「新バット導入」で激変した24年の高校野球総括!勝敗を分けた特徴的傾向を徹底分析する
今年の高校野球は、センバツから導入となった「新基準低反発バット」(新バット)によって、戦い方が大きく変わった。まさに「改革元年」と言っていい。よほど芯でとらえない限り、外野を超えていく打球はまれで、飛距離は格段に落ちた。当然、投手が優位になる。実際、春夏とも、甲子園の覇者は投手力に秀でたチームだった。
センバツは「ダブルエース」のチームが決勝へ
センバツ前の取材から、バントの重要性や、難しくなる外野手の守備などを指摘する指導者は多かった。ただ実戦経験が乏しかったため、最初の使用機会となるセンバツに、全国の関係者の視線が注がれた。予想通り本塁打は前年の12本から激減し、わずか3本。うち1本がランニング本塁打だったため、「さく越え」は2本にとどまった。当然のことながら、投手力のいいチームが上位に残り、優勝した健大高崎(群馬)には、左腕の佐藤龍月、剛速球右腕の石垣元気(ともに2年)の左右の両輪。準優勝の報徳学園(兵庫)には、前年から主戦級だった間木歩(3年=主将)と今朝丸裕喜(3年)の本格派右腕二枚を擁していた。上位進出のためには、信頼できる複数の好投手が必要なのは、今に始まったことではないが、打力のあるチームが豪快にひっくり返すような、スリリングな試合展開が減ったことも挙げられる。
夏の決勝は0-0のまま延長タイブレークに
その傾向がより鮮明になったのが夏の甲子園だ。大会通算本塁打は、昨年の23本から7本と激減傾向は変わらず、投手の活躍が目立った。優勝した京都国際(タイトル写真)は、1回戦から準々決勝まで、エースの中崎琉生(3年)と西村一毅(2年)の両左腕が交互に完投し、準決勝と決勝は継投策で乗り切った。特に西村は24回を投げて自責ゼロ。6試合のチーム防御率も0.82という驚異的なものだった。ちなみに準優勝の関東一(東東京)もチーム防御率は0点台で、夏の甲子園としては異例の投手優位。消耗が激しいはずの決勝が0-0のままタイブレークに突入したのがその象徴で、昨年までのバットを使っていたらあり得なかっただろう。
公立のスーパーエースが強豪連破も
また、ひと昔前の一人エースで勝ち進むという「回帰現象」もあった。大社(島根)の快進撃がそれで、初戦で報徳を破ると、創成館(長崎)と早稲田実(西東京)に延長タイブレークで連勝して、93年ぶりの8強入りを果たした。エース左腕の馬庭優太(3年)は3試合連続完投だったが、早実戦から中1日となった神村学園(鹿児島)との準々決勝では先発を回避。5回途中から登板したが、さすがに疲労は隠せず、5失点(自責4)と苦しんだ。それでも公立校が強豪私学を連破するさまは、久しく甲子園ではお目にかかれなかった。これも新バットがもたらした効能と言えなくはない。
バントの成否が勝敗を分けた
一方、攻撃面で新バットはどんな影響をもたらしたのだろう。最も目についたのが、バントの成否で明暗が分かれたことだ。前述の大社と早実の延長戦では、大社の絶妙なバント安打がサヨナラ勝ちにつながった。8強入りした滋賀学園は、1死からでもバントで得点圏走者にこだわり、適時打で加点する手堅い攻めを見せた。滋賀学園は、8強進出校で、犠打の数とチーム打率はいずれもトップ。敗れた青森山田との準々決勝では、初回の無死2塁からバントを失敗して、押し気味だった試合を0-1で落とした。その意味では、守備側の簡単にバントをさせない投手の球威やバントシフトも重要になってくる。
全国の指導者が参考にした霞ケ浦の左腕
そして最も新バット野球の方向性の指標となったのが、2回戦の霞ケ浦(茨城)と智弁和歌山の試合だった。霞ケ浦の左腕・市村才樹(2年)は、100キロに満たない「超遅球」を駆使して強打線を抑え込んだ。最終的には8回に本塁打2本で追いつかれたが、7回まで3安打無失点に抑えた投球は、全国の指導者に衝撃を与え、秋の大会でも複数の監督が、「この試合が参考になった」と話していた。つまり、球威がなくとも、バットの芯を外すコースに投げ切れれば、凡打を量産させられるということだ。以前なら、少々バットの先でも大きな当たりが出た。しかし、新バットは、いわゆるスイートスポット、つまり芯に相当する部分が小さく、外れると詰まったり、当たり損ねの打球になったりする。
高校生の技術向上につながる新バット
新チームとなった秋の大会でもその傾向は変わらず、投手力のチームが上位に顔を揃えた。ただし、以前のような球威のある本格派エースのチームばかりではなく、制球力に優れた投手を堅守で支えるチームが、接戦をモノにした印象がある。来春のセンバツは新バット導入後1年となり、選手たちも慣れてくるだろう。今春のセンバツに出場した京都外大西の上羽功晃監督(54)は、「高校生の技術は上がってくるはずで、将来につながる」と、木製バットに近い仕様の新バット導入に前向きな見方をしていた。以前、進学したりプロに進んだりして、木製バットと金属バットの違いに戸惑う選手が多かったことを考えれば、受け入れる側も大歓迎だろう。チームにとっても、選手にとっても、改革のスタートとなった24年シーズンだった。
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