ここ10年「甲子園優勝投手」は活躍しているか
センバツ組は苦戦、夏は成功の傾向も
3月18日に開幕するセンバツ高校野球の出場校32校が発表された。連覇を狙う健大高崎、昨年秋の明治神宮大会で優勝した横浜、激戦区の近畿を制した東洋大姫路などが有力校として挙げられる。甲子園大会と言えばやはり大きな話題となるが優勝投手だ。一時は“甲子園優勝投手はプロで大成しない”というジンクスがまことしやかに囁かれることもあったが、果たしてその後の活躍ぶりはどうなのだろうか。2015年から2024年までの10年間の優勝投手の現在地を探ってみた。
まず春のセンバツ優勝投手で最も活躍している選手といえば2016年に智弁学園を優勝に導いた村上頌樹(阪神)になるだろう。3年春に出場したセンバツでは5試合を1人で投げ抜き、決勝戦では自らのバットでサヨナラタイムリーを放つ活躍を見せた。東洋大でも早くから投手陣の一角に定着し、4年時には怪我で少し評価を下げたものの2020年のドラフト5位でプロ入り。3年目の2023年にはMVP、新人王、最優秀防御率のタイトルを獲得してチームの日本一にも大きく貢献した。昨年は7勝11敗と負け越したが、それでもチームのエース格であることは間違いない。
ただセンバツに関しては村上以外の優勝投手はプロ入りしても苦戦しているケースが目立つ。2017年、2018年は大阪桐蔭が連覇を達成し、いずれも根尾昂(中日)が優勝の瞬間にマウンドに立っていたが、プロではポジションが定まらなかったこともあって、いまだに一軍で勝利を挙げることはできていない。2017年に背番号1を背負っていた徳山壮磨(DeNA)も早稲田大を経て2021年のドラフト2位でプロ入りしたが、3年間で1勝にとどまっている。さらに2018年に背番号1を背負っていた柿木蓮(元・日本ハム)は昨シーズン限りで引退となった。2021年に東海大相模を優勝に導いた石田隼都(巨人)も昨年3月にトミー・ジョン手術を受けて今年から育成契約となっている。
また2015年優勝投手の平沼翔太 (敦賀気比→日本ハム→西武)と、2019年優勝投手の石川昂弥(東邦→中日)はいずれも野手としてプロ入りしているが、レギュラー獲得には至っていない。そんな中でプロで順調なスタートを切ったのが2022年優勝投手の前田悠伍(大阪桐蔭→ソフトバンク)だ。ルーキーイヤーの昨年は二軍で12試合に登板して4勝1敗1セーブ、防御率1.94という見事な成績を残し、シーズン終盤には一軍で先発デビューも果たしている。このまま順調にいけばここ数年の間に先発ローテーション争いに加わってくる可能性も高いだろう。
一方で夏の甲子園優勝投手は春に比べるとプロで結果を残している選手が多い。まずトップを走っているのが10年前の2015年に東海大相模を優勝に導いた小笠原慎之介(中日→ナショナルズ)だ。ドラフト1位で中日に入団すると、早くから先発の一角に定着。二桁勝利こそ2022年の1度だけだが、過去4年間連続で規定投球回数をクリアし、このオフにはメジャーリーグへの移籍を果たした。入団が決まったナショナルズでも先発としてかかる期待は大きい。
2016年に優勝投手となった今井達也(作新学院→西武)、2017年優勝投手の清水達也(花咲徳栄→中日)もともに高校からプロ入り。今井は2年目から先発ローテーション入りすると、制球に苦しんで停滞した時期はあったものの2023年からは2年連続で二桁勝利をマーク。昨年は最多奪三振のタイトルも獲得した。近いうちに小笠原に続いてメジャー移籍という可能性もありそうだ。清水も5年目の2022年に中継ぎとして一軍に定着すると、3年連続で50試合以上に登板。昨年はチームトップタイの60試合に登板して3勝1敗1セーブ36ホールド、防御率1.40という見事な成績を残した。絶対的なクローザーだったライデル・マルティネス(巨人)が退団した今年はさらにその肩にかかる期待は大きくなりそうだ。
ここまでは既にプロで活躍している選手を紹介してきたが、大学で順調にステップアップしている選手も存在している。その筆頭候補と言えるのが2021年夏に智弁和歌山を優勝に導いた中西聖輝(青山学院大)だ。2年まではリーグ戦での登板機会は少なかったが、常広羽也斗(広島)、下村海翔(阪神)の抜けた昨年はエース格へと成長。春は7試合に登板して2勝0敗、秋は8試合に登板して6勝0敗という見事な成績を残し、チームの大学四冠にも大きく貢献した。安定感は大学球界でもトップクラスであり、今年のドラフトでリストアップしている球団も多いだろう。
こうして見ると“甲子園優勝投手はプロで大成しない”というジンクスは当てはまらないケースが多いように見える。今回取り上げた以外にもまだ今後のプロ入りが狙える選手も多いだけに、今後さらに野球界を席巻する甲子園優勝投手が出てくることを期待したい。