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高校野球あれこれ 第159号

“飛ばないバット”でも「長打は必要。悔しさ100%」報徳学園センバツ2年連続準V…“夏への宿題”は「ロースコアに持ち込めば」以上の力

 

  最後までスタイルを貫き、頂点に手が届くところまで迫った。報徳学園は今センバツ、守備でも攻撃でも甲子園で勝つ見本を示した。昨年の決勝でもスタメン出場した3番・サードの西村大和選手は悔しさの中に、1年前とは違う手応えを感じていた。

 

「練習でも試合でも、チーム全体で球際に意識を持ってきました。投手が打たれて失点するのは仕方がありません。ミスでの失点や大量失点をしなくなったところはチームの成長だと思います」

 

大会本塁打“わずか3本”の中で示した球際の強さ

 今大会から導入された新基準のバットは、出場校の歯車を狂わせた。ゴロは打球の勢いが弱く、フライはバットの音と飛距離にギャップがある。内野手も外野手も翻弄され、守備の乱れが失点や勝敗に直結するケースが多かった。

 

 打撃では長打が極端に減った。大会を通じて、本塁打大阪桐蔭・境亮陽選手のランニング本塁打を入れてもわずか3本。昨年の12本から大きく減少し、金属バットが導入された1975年以降で最少となった。2ケタ得点は1回戦で豊川を下した阿南光の一度だけだった。

 

 大量得点が難しくなれば、自然とロースコアの接戦が増える。この試合展開を得意とするのが報徳学園なのだ。健大高崎との決勝でも再三、守備でスタンドを沸かせた。

 

 1回はサードの西村が魅せた。同点に追いつかれ、なおも2死二塁の場面。三遊間へのゴロに飛びつき、素早く立ち上がると一塁へ正確に送球した。2回はセカンドの山岡純平選手が続く。一、二塁間のゴロに体を伸ばして捕球し、事も無げにアウトを取った。

 

 5回はショートの橋本友樹選手。1死二塁で三遊間の打球を横っ飛びで抑えて一塁へ。送球はショートバウンドになったが、ファーストの斎藤佑征選手がすくい上げた。チームでテーマにしてきた球際の強さ。日本一を争う舞台でも披露した。

 

5試合で2失策だけ…「ロースコアに持ち込めば」

 今大会の1回戦で、相手チームより失策数が多くて勝利したチームは3校しかない。大会出場校で打率トップだった健大高崎、主軸が木製バットを使って話題となった青森山田、そして強打を特徴とした大阪桐蔭の3校だ。

 

 失策が敗因になるのは野球の定石とはいえ、新基準のバットでは、その傾向がより強くなる。相手を圧倒する打力がない限り、守備のミスは致命的になる。

 

 報徳学園は今大会、5試合で2失策しかしていない。しかも、中央学院戦でセカンドの山岡に記録された失策は打球の勢いが弱く、グラブに収めて一塁に送球しても内野安打になる当たりだった。そして、決勝でも見せたように、投手が安打を覚悟した打球を内野手がアウトにしてきた。

 

ロースコアに持ち込めば勝てる

 

 報徳学園の選手たちは接戦への自信を深めた。1回戦は愛工大名電に延長10回の末、サヨナラ勝利。準々決勝の大阪桐蔭戦も、準決勝の中央学院戦もロースコアの展開を制した。

 

優勝した健大高崎は“打”のチームだった

 打撃ではセンター方向を中心に低く強い打球を徹底した。5試合で放った安打43本のうち、単打は40本。実に93%を占める。長打は二塁打の3本だけで、全てを5番・安井康起選手が放っている。打球が飛ばない新基準バットの特徴を踏まえ、バントや盗塁を絡めてコツコツと得点を積み重ねた。堅い守備があるからこそ、接戦を勝ち切るスタイルを貫けた。

 

 決勝で対戦した健大高崎は対照的なチームだった。

 

 昨秋の公式戦は9試合でチーム打率.397。大会ナンバーワンの打力は甲子園でも相手の脅威となった。失策で失点しても、ちぐはぐな攻撃が続いても、長打で局面を打開する。準決勝の星稜戦は象徴的だった。バントやバスターといった小技がことごとく決まらない。青柳博文監督は試合後、こう話している。

 

「監督のミスを選手たちに助けてもらいました。全くサインが上手くいかなかったので、中盤以降のチャンスでは細かいことをせずに打たせました。うちらしい野球ができたと思います」

 

 健大高崎は今大会のチーム安打数が41本。本塁打こそなかったが、長打は8本に上った。決勝でも1回に森山竜之輔選手の二塁打で2点差を追いつき、3回は先頭の斎藤銀乃助選手の三塁打をきっかけに得点した。

 

「長打が出ませんでした…必要ですね」

 健大高崎は2つの失策を記録しても決勝で勝利した。報徳学園は失策なく、好守を連発しても1点届かなかった。試合後、大角健二監督は「長打」を繰り返した。

 

「選手は本当によく戦いました。去年は悔しさ半分でしたが、今年は悔しさが100%です。長打が出ませんでした。しっかりバットの芯で捉えることが大事ですが、長打は必要ですね」

 

 選手たちも長打の必要性を痛感していた。4番の斎藤は「相手は力強い打球が飛んでいました。単打では盗塁やエンドランを絡めないと、1つずつしか塁に進めません。長打は得点のチャンスが広がりますし、チームの雰囲気を変える力もあります」と力を込めた。そして、こう続けた。

 

「同じ戦い方では日本一にはなれません。苦しい時に誰かが長打を打てるチームになって夏は甲子園に帰ってきたいと思います。その誰かに自分がなるつもりです」

 

低反発バットでも芯に当たれば長打になる

 斎藤以外の選手も日本一に向けて長打を課題に挙げる。ただ、スイングを大きくして長打を増やすつもりはない。

 

 あくまで意識するのは、バットの芯で捉えて外野の頭を越える打球や外野の間を抜く打球だ。斎藤は「もっとスイングを強くして飛距離を伸ばします」と話す。3番の西村も「センター方向に強い打球を打つ基本は変わりませんが、ミート率を上げていく必要があります。低反発バットでも芯に当たれば長打になると思っています」と語った。

 

 結果は昨年と同じ準優勝だった。だが、今年は日本一をはっきりと視界に捉えていた。「球際の強さ」と「長打不足」。報徳学園は夏の頂点に向け、1年前とは質の違う収穫と宿題を手に聖地を去った。