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高校野球あれこれ 第160号

2年連続センバツ準優勝 報徳学園はなぜ「専用グラウンド」もないのに、名門校と渡り合えたのか?

 

「公立高校の方が立派な施設を持っています」

今年の選抜高校野球は3月31日、健大高崎(群馬)が報徳学園(兵庫)を3対2で破り、春夏通じて初優勝を飾った。高校ナンバーワン捕手の呼び声高いキャプテンの箱山遥人を中心に力のある野手が揃い、佐藤龍月と石垣元気という左右の二枚看板が見事な投球を見せ、優勝にふさわしい戦いぶりだった。

 

   1回戦が終了した時に、デイリー新潮に寄稿した「センバツ初戦突破! 健大高崎が誇る“司令塔”箱山遥人の凄み “機動破壊”から方針を転換」(3月22日配信)という記事の中で触れているが、健大高崎は充実した設備と指導スタッフ、そして進学実績によって選手のスカウティングは全国でも屈指で、箱山と佐藤は東京出身、石垣は北海道出身といったように、中学時代から評判だった選手が多く集まっている。

 

 チームを指揮する青柳博文監督は、優勝インタビューで「自分一人ではできないので、仲間とかコーチ、いろんな方の支援のおかげです」と答えていた。まさに組織力で勝ち取った優勝だ。

 

 野球留学に対して否定的なファンなどからは、全国から有望な選手が集まることで健大高崎ではなく“県外高崎”と揶揄されることも多かったというが、野球で身を立てたいと考える選手の能力を伸ばすために、ハード面とソフト面を充実させ、結果に結びつけたことは高く評価されるべきだろう。

 

 一方で、設備や人員が充実していなくても結果を残しているチームがある。その代表格が、2年連続選抜準優勝の報徳学園だ。

 

 甲子園で春2回、夏1回の優勝経験があり、今大会で春夏通じて38回目の出場という名門校。にもかかわらず、報徳学園には、野球部の専用グラウンドや室内練習場がない。永田裕志前監督(現・日大三島監督)は、監督時代に「兵庫の他の公立高校の方がよっぽど立派な施設を持っています」と語っていたほどだ。

 

選手たちに見せた映画「ロッキー4」

 伝統の力もあって、実力がある選手は入学してくるとはいえ、その大半は兵庫、大阪といった近畿圏出身の選手。健大高崎のように全国各地から選手をスカウティングしているわけではない。

 

 さらに、報徳学園の野球部OBは、大角健二監督についてこのように話してくれた。

 

「学校の方針ということもあるのですが、(大角監督は)野球部の指導だけをしていればいいわけではなく、教員の仕事も大変忙しい。今年も、大会直前まで学校の仕事をしていました。過去には、受け持っているクラスの(野球部ではない)生徒が学校に来られなくなってしまって、その対応に追われていたこともあるようです。(報徳学園OBで)大阪桐蔭の西谷(浩一)監督は、自分は教員の会議に出ていたら他の教員から『西谷先生は会議なんか出なくていいので野球の練習をしてください』と言われたと話していました。(大角監督が)監督に就任した時(※2017年の新チームから就任)はプレッシャーもあったと思いますけど、多忙である教員の仕事もしながら、本当によく頑張っていると思います」

 

 報徳学園が初戦で対戦した愛工大名電(愛知)も、最新の機器などを導入したことが話題となっていた。大角監督は、愛工大名電戦を前に、選手たちに映画「ロッキー4」を見せたという。

 

「ロッキー4」は、最新の科学技術を駆使したソ連(当時)のボクサー、ドラゴに対して主人公のロッキーが地道なトレーニングによって戦い、勝利するという物語だ。環境的に恵まれなくても、やり方によっては勝てるということを選手たちに伝えたいという思いがあったのだろう。

 

5試合で失策はわずか「2」

 ただ、決して恵まれない環境の中でも、2年連続で選抜準優勝を達成したというのは明確な強みがある。今大会で特に光ったのは“堅守”だ。5試合で失策はわずかに2。選手たちは、難しい打球を上手く処理していた。

 

 大角監督は、1回戦後の取材で「守備は伝統的に強みの部分ですのでしっかり鍛えてきました」と話していたが、限られた環境の中でも全国トップの守備力を身につけることは可能であると証明した。

 

 もうひとつの大きな強みが投手力である。今大会は、エースの間木歩と、ドラフト上位候補の今朝丸裕喜という好投手を擁して、決勝まで勝ち上がった。近年の報徳学園は、毎年のようにプロ注目の投手を輩出しており、ピッチャーの指導を担当している磯野剛徳部長が、外部のコーチなどを訪れ、投手を育成する方法を日々研究している賜物といえるだろう。

 

 もちろん、報徳学園も伝統を生かした人脈など、他の学校から見れば恵まれた部分があるのかもしれない。それでも、練習環境に恵まれない一般的な学校が参考にできるところも多いのではないか。