最速1.81秒の世代屈指の強肩捕手
公式戦はほとんど盗塁阻止
明治神宮大会史上初となる連覇を成し遂げた大阪桐蔭(大阪)を中心に、2023年の高校野球も大いに盛り上がるに違いない。そんな大阪桐蔭を苦しめた数少ない学校は、兵庫の名門・報徳学園だ。
近畿大会決勝で0対1で敗れたものの、最後まで1点を争う好ゲームを見せた。敗戦は受け止めるべき課題ではあるが、収穫もあった一戦だろう。ただ、「同じ相手に負けないように、日本一を取れるようにやっていきたい」とリベンジに燃えている男がいた。それが世代屈指の強肩捕手として注目されている堀 柊那捕手(2年)だ。
自信がなかったスローイング
堀 柊那捕手(2年)。遠投100メートルを誇る強肩を生かして、イニング間の二塁送球は最速1.81秒をたたき出す。「準々決勝・履正社戦で1つ許してしまいましたが、それ以外はほとんどありません」と盗塁阻止は、堀の絶対的な武器となるなど、NPBのスカウトも高く評価しているポイントとなっている。
小学3年生から野球を始め、5年生の時にはソフトボール投げで58メートルを計測したという。当時から肩の強さは群を抜いていたこともあって、ポジションは捕手だけにとどまらなかった。三塁手、遊撃手、そして投手と地肩の強さを発揮できるポジションを回っていた。
中学では兵庫夙川ボーイズでも変わらない。学年でもトップに入るハンドボール投げ40メートル以上を投げる強肩で、あらゆるポジションを経験した。
そんな堀のもとに、最も先に声をかけたのが報徳学園だった。しかも捕手として話をしてもらえたことに「嬉しかったです」と地元の強豪から評価されたことを決め手に、報徳学園への門をたたいた。
高く評価されているだけあってか、ベンチ入りは早かった。1年生の春にはベンチ入りを果たし、その後もメンバー入りを続ける。順調にステップアップしているように思えるが、「(投手の)球速も変化球のキレも凄いので、とにかく受け続けて慣れるようにしました」と高校野球のレベルに苦戦を強いられていた。
代名詞ともいえるスローイングも同様だ。「暴投が多くて、10球に2球くらいしか良いところには投げられていなかったので、確率が悪くてあまり自信はありませんでした」とかなり精度に課題があったようだ。
自信を持つために確立したスローイング
現在は「ピッチャーの胸を狙って良い回転の送球さえできれば、良いところに投げられる」と自分なりのターゲットは確立できているが、さらに深堀していくと、細かいこだわりがあり、1つ1つのピースがかみ合ったとき、安定したスローイングが成立することが分かった。
◆前提
スローイングの理想、優先度は、8割の力で10割の力の送球ができる安定感があるスローイングだという。
以前までは捕ってからの速さや、思い切り投げることを求めていたが、送球が引っ掛けたり、シュートしたりと安定性に欠いた。それでは結果的に盗塁阻止率は下がるため、スローイングの安定性を最優先で考えている。
◆捕球姿勢
ランナー有無にかかわらず、構え方は常に同じ。あまり意識をしているところではないが、基本姿勢はソフトバンク・甲斐 拓也捕手(楊志館出身)を参考にして、左足を半歩前に出した状態で構える。
◆捕球・握り替え
時間短縮に最も関わっているポイント。捕球位置はできるだけ身体の近くにする。捕球方法は、球の勢いを利用して吸収するように捕球する。そのうえで耳元までミットを引き付ける、運ぶ感覚で動かして、耳元で事前に待ち構えている右腕まで持っていったら握り替えをする。ちなみに通常はきちんと受け止めるように捕球。捕球位置は音を鳴らすことを大事に、親指と人差し指の間で捕ることを心がけている。
◆ステップワーク
予備動作として、走者が走っていることを確認できたら重心を右足に乗せて、左足を自由にする。そのうえで、投手のリリースの瞬間を見てから左足を気持ち踏み出す。それから右足、左足の順番でステップを踏んで、勢いを作っていく。1、2、3のリズム感で足を動かしていく。
リズム感をつかめたのは秋季近畿大会。春季大会では最初の左足の踏み込みが早く、全身のバランスが崩れ、スローイングのタイミングが合っていなかった。ネットスローなどで5球5セットと量は少ないが、ステップを確認して習得に結びつけた。
◆送球
真っすぐ伸びあがるような回転をかけた送球がベスト。シュートさせないためにも左肩でしっかり壁を作ったり、両腕を体の内側だけで回して投げられるようなフォームを意識している。
リリースについても回転数が増やせるような、回転のかけ方を探し求めている。
スローイングの前提も含めて、送球に至るまでの4つの動作を細かく切り抜き、要点をまとめた。堀がいかに阻止率を高めるために細部にまでこだわっているのか。こだわりぶり、そして高い阻止率の理由は十分見えたのではないだろうか。
柔軟性を高め、高確率の結果を残せる選手へ
いまもなお「正直まだ自信はないです。まだまだだと思っています」と現状に対して全く満足などしていない。あくなき向上心、ストイックぶりも堀のパーソナルの魅力と言っていいだろう。
そうした部分もあってか、1年生秋からは下級生ながら正捕手の座をつかみ、2年生春には近畿大会でベスト4を経験。夏の兵庫大会も5回戦で明石商に敗れたが、「試合数を重ねるたびに緊張が減って、自分のプレーができるようになってきた」といい意味で場慣れをしてきた。
その一方で「明石商との試合では1死満塁で打つことができずに悔しかった」と苦い思い出もある。その反省から、チームが掲げていた「一」への拘りを心に刻んで、新チームでは攻守でチームを牽引してきた。
元プロ野球選手の葛城 育郎コーチから「ポイントについてずっと指導いただいています」とのことで、その成果もあってか、近畿大会では打率.588をマーク。準優勝にバッティングでも大きく貢献した。
ただ「しなりを使って打てていない」と打撃に対しての課題を挙げるコーチもおり、高校通算13本塁打ながら伸びしろが守備以上にあるようだ。
鍵は柔軟性だ。 「普段の練習から猫背になってしまったり、柔軟が硬かったり、股関節が抜ける感覚がありました。反応しても、素早く動けないところがありました。ピッチャーメニューを大阪桐蔭戦が終わってすぐに加わるようになって、徐々に良くなってきました」
近年、近畿地区から高卒ドラ1捕手が誕生し続けている。ロッテ・松川 虎生捕手(市立和歌山出身)、DeNA・松尾 汐恩捕手(大阪桐蔭出身)の2人は「凄く目標になる存在です」と堀にとって刺激をもらえる先輩たちであり、追いかける存在となるだろう。
まずはセンバツで頂点を獲ることだ。「攻守ともに高い率を残せるかが今後の課題だと思っています」と安定した結果を残すことを目標に掲げた。そのうえで、「近畿では大阪桐蔭に負けましたが、同じ相手に負けないように、日本一を取れるようにやっていきたい」とリベンジと日本一を狙うことを宣言した。
常に高みを目指し、自身を追い込み続ける堀。一冬越えて、どれほどの選手に成長するのか。今後の活躍も見逃せない。