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高校野球あれこれ 第169号

王国・大阪の高校野球に“異変”?

大阪桐蔭履正社が破れ他校が躍進、“二強時代”は変わるか

 

 5月に入り、全国各地で行われている高校野球の春季大会も佳境を迎えている。直接甲子園出場には関わる大会ではなく、入学したばかりの1年生を試しているチームもあるが、夏のシード権にかかわってくる地域も多く、そういう意味では気の抜けない大会とも言えるだろう。

 

そんな中で話題となっているのが大阪だ。近年は大阪桐蔭履正社が完全な二強となっており、過去10年間でこの2校以外に春夏の甲子園に出場したのは大阪偕星(2015年夏)、近大付(2018年夏)、金光大阪(2022年春)の3校しかない。しかも2018年夏は100回記念大会で南北に分かれており、北大阪からは大阪桐蔭が出場。2022年春の金光大阪大阪桐蔭と揃っての出場であり、純粋に二強以外が勝ち上がったのは2015年夏の大阪偕星だけと言える。

 

しかしこの春は大阪学院大高が4回戦で履正社、準々決勝で大阪桐蔭と二強を破り、その勢いのまま初優勝を果たしたのだ。大阪学院大高と言えばかつて阪神などで活躍した江夏豊の母校として知られており、1996年春にはセンバツでベスト8にも進出しているが、甲子園出場はこの1回しかない。近年も2018年夏の北大阪大会で決勝まで勝ち進んだものの、大阪桐蔭を相手に2対23という大敗を喫している。ところが昨年春に大阪公立大で実績を残した辻盛英一監督が就任して強化を図ると、今年はショートの今坂幸暉がドラフト候補として注目を集めるなど、一気に力をつけて二強を破ったのだ。

 

その大阪学院大高に決勝で敗れた興国も昨年秋は近畿大会に出場しており、近年力をつけてきたチームだ。監督を務めるのは智弁和歌山で1997年夏の甲子園優勝を果たし、慶応大を経てドラフト1位でロッテに入団した喜多隆志氏で、2018年の就任以来着実に力をつけている印象を受ける。興国は過去7度の甲子園出場があり、1968年夏には全国制覇も達成しているが、最近はサッカーの強豪というイメージとなっている。そんな中で甲子園出場を果たせば、大きな話題となることは間違いないだろう。 準決勝で大阪学院大高に敗れた大商大高も2019年春には上田大河(現・西武)を擁して優勝を果たしている。東海大大阪仰星も甲子園からは遠ざかっているが、コンスタントに上位進出を果たしており、二強に続く“第二グループ”という印象は強い。 

 

ただそんな大阪府大会の準決勝だったが、レベル的には決して高いものではなかったことは確かだ。筆者は評判の今坂のプレーを確認するために現地で試合を見ていたが、観客からは「(大阪)桐蔭と履正社がおらんと迫力がないわ」という声が聞かれた。長年関西で高校野球を取材している記者も「(二強以外の)大阪のレベルは高くない。大阪桐蔭センバツとはメンバーを入れ替えて色々試しているようだった」と話している。

 

それを裏付けているのが投手のスピードだ。準決勝に登板した投手は4チームで6人いたが、140キロはおろか、135キロ以上をマークした投手も一人もいなかった。大阪はメイン会場となる大阪シティ信用金庫スタジアムが両翼100メートル、センター122メートルでフェンスも高く、さらに低反発の金属バットが導入されたことでホームランや長打がより出づらくなっており、制球力に長けた投手が起用されたということもあるが、全国でもトップの激戦区の準決勝でこの数字は寂しいものである。

 

この春は大阪以外に埼玉、栃木の準決勝を現地で見たが、ほとんどのチームが140キロ前後をマークする投手を揃えていた。もちろん投手のストレートの速さとチームのレベルはイコールではないものの、打撃や守備についても決してハイレベルという印象は受けなかった。

 

その背景にあるのはやはり二強が近年突出した成績を残してきたということである。プロ球団のスカウトはこう話す。

 

「関西は中学野球のレベルも高いですが、大阪で甲子園に出ようと思ったら大阪桐蔭履正社以外からは難しいというのが共通の認識になっています。この2校と縁がなかった選手は甲子園に出るためには他県の強豪校に行った方が確率は高くなると判断しますよね。甲子園に出ている関西以外のチームにも関西出身の選手は多いじゃないですか。そうなるとどうしても二強と他のチームの差は開きます。特に大阪桐蔭は関西だけじゃなくて、他の地域の力のある選手も多く入ってきますから」

 

大阪桐蔭履正社以外の大阪の高校から大学や社会人を経由せずに直接プロで上位指名を受けた入団した現役選手は一人もおらず、そのことも二強と他校の差が大きいことをよく表していると言えるだろう。

 

ただこの春に大阪学院大高が優勝を果たし、興国が古豪復活を感じさせていることで、地元関西の有望選手の意識が少しでも変わる可能性はあるはずだ。二強の時代がこのまま続くのか、それとも群雄割拠の時代が訪れるのか、夏以降の各校の戦いぶりに引き続き注目したい。