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スポーツ、特に高校野球の記事を中心にして、監督、伝説の試合、結果考察などを記しています。 記事に関連した書籍やコーヒー機能付きウォーターサーバー、  生ビールサーバーを紹介しています。

高校野球あれこれ 第63号

名勝負列伝-【29】花巻東×明 豊

 

<花巻東・菊池が降板、奮い立つ仲間「自分たちの力証明」>

 

最大の試練が訪れた。2009年8月21日。岩手代表の花巻東は、大分代表の明豊と4強の座を争っていた。4点リードの五回裏。それまで1人の走者も許していなかったエース、菊池雄星の様子がおかしい。

最初に気づいたのは二塁手の柏葉康貴だ。「腰を手で触ってましたから」。無死一、三塁で6番打者への2球目の後、菊池は両ひざに手をついた。「呼吸をするのも痛かった」。4人目を遊飛に仕留めた後、佐々木洋監督は三塁手・猿川拓朗への投手交代を決めた。

左腕から繰り出す150キロを超える剛球が持ち味の菊池は、この世代のナンバーワン投手だった。選抜大会は準優勝。満を持して迎えた最後の夏、岩手で生まれ育った花巻東の選手たちは、岩手の高校野球史上初めて、本気で、自信をみなぎらせて、深紅の大優勝旗を取りに来ていた。

その最強エースが、もうマウンドにいない。苦闘が始まる。明豊とは選抜でも二回戦で対戦した。4―0で退けていても、「あのときは雄星がよかった。今宮(健太、ソフトバンク)もいて、手ごわい」と猿川。緊急登板で、変化球のコントロールに苦しむ。

必死で止めるのは、捕手の千葉祐輔。腰を落とし、ときにグラウンドにへばりつくようにして、体を張った。「ずっと監督さんに、『負けるとしたら、お前で負ける』と言われていたから」。意地でも後ろへそらさない。

じわじわと追い上げられ、八回、逆転を許した。2点を追い、残された攻撃は1イニング。九回無死一、三塁で、5番の横倉怜武が偽装スクイズに成功し、二、三塁。ここで、横倉は緊張のあまり硬直する。ボール球に手を出してファウル。佐々木監督は伝令に菊池を送り出した。

伝令を託す選手には、こだわりがあった。「暗い顔や心配そうな顔はダメ」と佐々木監督。いつも朗らかで、大黒柱として信頼も絶大の菊池は最適だった。横倉が漏らした言葉を菊池はよく覚えている。「『打ち方忘れた』って。こんなときに、って思った」

菊池は横倉の肩を抱き、笑顔を交え、佐々木監督の指示を伝えた。「顔を残して、球を上から見てたたけ」。果たして、横倉はその通り、顔を動かさず、体も開かず、右翼へ打ち返した。ずっと練習してきた打球だった。同点だ。

十回。2死二塁で打席が回ってきた主将の川村悠真は、初球を振ると決めていた。選抜大会決勝。1点を追う八回2死一、三塁で、ちゅうちょした。「重盗もあるかな、振らないほうがいいかな、と思っていたら」。つい初球に手が出て、三飛に倒れた。だから、もう迷わなかった。中前安打で決勝点を挙げた。

試合後、お立ち台で報道陣のインタビューを受ける川村をちらちらと見て、横倉は誇らしかったという。「あそこに立っているのは、いつも雄星だった。やっと、自分たちの力を証明できた」。菊池の途中降板という大ピンチを、野手の総力で乗り切った。

延長十回、2時間49分に全精力をつぎ込んだ花巻東は、準決勝で中京大中京(愛知)に1―11で敗れた。菊池のケガが肋骨(ろっこつ)の疲労骨折と判明するのは大会後だ。日本一には、あと一歩、届かなかった。しかし、選抜で5試合、選手権大会で5試合。甲子園で戦った計10試合は、この年、全国のどのチームよりも多かった。

本日は以上です。

 

Number(ナンバー)983号「高校野球が教えてくれた。」 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))を紹介します。

 

夏の高校野球特集 第1弾! ◆

高校野球が教えてくれた。

花巻東出身のメジャーリーガ Wインタビュー

【自律の3年間を語る】

大谷翔平「『楽しい』より『正しい』を」

【覚悟の夏を語る】

菊池雄星「監督を男にしたかった」

【チームメートが語る】

雄星と翔平と花巻東と──「目標設定シート」で実現する夢

■甲子園常連校のDNA

【我らの最強高校論】

大阪桐蔭高校「ほとばしる情熱と常勝の宿命」

根尾昂/中田翔/西岡剛

【超名門の極意】

横浜高校「誰よりも走って、頭を使え」

涌井秀章/近藤健介/渡邊佳明

【プロ量産高の秘密】

広陵高校「帰りたい場所がある」

有原航平/小林誠司/佐野恵太

【昭和の象徴を問う】

PL学園 研志寮

「理不尽の先の光と清原和博

【徹底検証】

甲子園常連校のプロ選手輩出ランクと活躍度

【沖縄出身初のホームラン王】

山川穂高「日本最強スラッガーのかけがえなき原風景」

【甲子園への憧憬を語る】 菅野智之「遠回りは、意外と近道」

【届かなかった甲子園】

“悲願校"からプロへの道

【強豪校出身! 芸人座談会】

ココリコ遠藤章造×TIMレッド吉田×ジャングルポケット斉藤慎二

「僕らの人生を変えた、遥かなる甲子園」

【異端から最先端へ】

慶應義塾高校「Enjoy Baseballの正体」

高校野球名言録】

名将たちの教え

木内幸男(常総学院)/馬淵史郎(明徳義塾)/山下智茂(星稜)

香田誉士史(駒大苫小牧)髙嶋仁(智弁和歌山)/我喜屋優(興南)ほか

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【王座奪回を語る】

村田諒太「僕は勝つべくして勝てた」

NBA短期集中連載 最終回】

八村塁「僕は何でもできるから」

ウィンブルドン決勝・敗者の名言】

フェデラー「37歳でも終わっちゃいない」

【芝の王者に追いつくために】

錦織圭「克服した難題と見えた課題と」

【連載ノンフィクション最終回】

2000年の桜庭和志クインテット

【連載第25回――独白]

桑田真澄「アピールとアクシデント」

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