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高校野球あれこれ 第136号

「154キロ右腕」大阪桐蔭・平嶋のこれから 憧れの前田悠伍のように、日本一を目指せる投手へ

 
 

少しずつ経験と自信を積み重ねる大型右腕

186センチの大型右腕・平嶋は少しずつ経験と成長を重ねている 

 ストレートの自己最速は何キロ? と尋ねられるたびに、大阪桐蔭の背番号1を背負う平嶋桂知(2年)は苦笑いを浮かべながら、申し訳なさそうにいつもこう返答していた。

「154キロ…です。今年の夏(の大会)前の練習試合で出ました」

 186センチ、84キロという体格から見ても、何か大きな期待を抱かずにいられない大型右腕だ。昨秋の近畿大会準決勝の龍谷大平安戦で4番手投手として公式戦デビューを果たすも、一死も取れずに降板した苦い経験を持つ。今春の大阪大会で、当時のエース・前田悠伍(ソフトバンク1位指名)がベンチを外れたことで登板機会が多く巡り、着実に経験を積んできた。

 今夏の大阪大会でも準々決勝の大体大浪商戦で先発し、5回まで無安打ピッチングを披露。6回に初安打を許し、そこから2失点した。「後半はバテてしまって、コントロールが悪くなった」と試合後は反省の弁を述べたが、1年前の秋の悔しさを糧に、夏の大事なマウンドを任されるまでになった。

 今秋からエース番号を背負うが、実は打撃の良さにも定評があり、登板のない試合は外野手として中軸を打つことも多かった。投手では珍しい右投両打で、中学時代は両打席でホームランを放ったこともある。

 だが、今秋からは投手に専念。近畿大会の初戦・高田商戦では先発のマウンドに立ち、6回を投げ3安打無失点と好投した。2回と5回に走者を三塁まで進めるピンチがあったが、低めのツーシームでいずれも空振り三振に仕留めてピンチを脱した。この日のストレートは140キロ台後半をマークし、エースらしく自信を持って投げているようにも映った。「(前エースの)前田さんから『お前が引っ張っていけよ』って言われていたんです」と話すように、堂々と投げ込む姿が印象的だった。

神宮3連覇を逃し「現時点の自分では通用しない」

悔しさの残るマウンドとなった神宮大会。この経験を来年の日本一につなげられるか 

 平嶋は東京都中野区出身。中学時代は稲城シニアでプレーし、当時から大阪桐蔭に憧れを抱いていた。関東圏にも魅力のある強豪校は多いが、「大阪桐蔭で甲子園に行きたい」と地元を離れて大阪へやってきた。入学直後は関西弁に圧倒され、慣れない地での生活に不安もあったが、徐々に慣れていき、今では大阪の雰囲気にも違和感を覚えなくなった。

 3年連続で秋の近畿大会を制し、明治神宮大会は“里帰り登板”が楽しみのひとつでもあった。だが、初戦となった準々決勝の関東一戦では初回に先制を許し、3回には真ん中に入ったカットボールを捉えられ、2ランを被弾。5回を投げ4失点と、課題の制球が安定しなかった。味方の失策による再三のピンチも、自らのピッチングで抑え込むことはできなかった。

「他のマウンドと違って投げやすさはありました。状態はいつもよりいい状態でブルペンに入れたんですけれど、球が上ずってしまいました。気持ちは入っていましたが、結果に結びつけられませんでした」

 慣れない雨上がりの人工芝での野手陣のエラーについては「緊張ではないけれど少し固くなった選手もいたのかも」と味方をかばった。それよりも、自分のピッチングに不甲斐なさだけが残った。

関東一高は簡単にアウトにならなかったです。追い込まれても粘ってくるし、逆方向にいやらしいバッティングをされました。それを嫌がらずに投げられるようにしないといけないです。

 相手のレベルが上がると、簡単に打ち取れない部分も多いですし、球が少し甘くいっただけで打たれてしまう。ここで抑えたいというところで抑えられるピッチャーになりたいです」

 明治神宮大会は史上初となる3連覇がかかった大会でもあった。新チームがスタートした直後は、「秋3連覇」という目標を掲げてきた。だが、現時点の自分ではまだ通用しないことを、身をもって感じた。

「チームとしてもこのままでは春の日本一になれないので、もっとレベルアップしていかないといけないです。コースに投げ切った球はしっかり抑えられたし、自分のペースで投げていけば抑えられると思いましたが、個人としては真っすぐも変化球も、もっと精度を上げていきたいです」

 平嶋の目線の先には前田の背中が常にあった。身近な目標でもある前田のような、どんなに調子が悪くても抑えられるエースが理想だという。

「そのためにも、僕がしっかりしないとチームはひとつにならない。練習ではできても試合でできなかったら意味がないと西谷先生(浩一監督)にも言われたので…。この冬は成長したい…いや、します」

 柔らかい口調の中で、最後の言葉には確かな力がこもっていた。