ぼくらのサイトⅢ

スポーツ、特に高校野球の記事を中心にして、監督、伝説の試合、結果考察などを記しています。 記事に関連した書籍やコーヒー機能付きウォーターサーバー、  生ビールサーバーを紹介しています。

高校野球あれこれ 第133号

大阪桐蔭にビックリ出現“189cmのスーパー1年生”「2年後のドラフト目玉」「異次元のスケール」森陽樹とは何者か?

 

衝撃の1年生…森陽樹とは何者か?

 今年の近畿大会で前田級の衝撃を与えた1年生がいた。前田級とはつまり、2年後のドラフトで主役になり得る逸材ということだ。

 

 森陽樹――宮崎県延岡市出身の16歳である。初戦の高田商業(奈良)戦と準々決勝・報徳学園(兵庫)戦に登板し、とりわけ勝てば来春のセンバツ切符が当確となる報徳戦は4対3と1点差に迫られた8回からマウンドを任され、打者6人をパーフェクトに抑えて火消しに成功した。189cmの長身から投げ下ろすMAX151キロのボールは圧巻だ。

 

 負けられない試合の終盤を森に託した西谷浩一監督はこう話した。

 

「1年生でまだまだ荒削りですけど、スケールが大きく、素材に恵まれている。大きく大きく育てたいと思って今やっているところなので、(緊迫した場面での登板は)彼にとって良い経験になったのではないでしょうか」

 

「大きく育てたい」は、のちにプロに進むような選手に対して、西谷監督がよく使う表現だ。2018年に春夏連覇を達成した根尾昂(中日)や藤原恭大(ロッテ)、もちろん前田にもその言葉を使っていたが、森に対しては「大きく大きく」と口にした。それだけで期待を膨らませてしまう。

 

宮崎出身…高身長の本格派右腕

 森の噂が耳に入ったのは昨春だった。宮崎県出身の筆者は同郷の中学生の動向を常に気にしていて、田畑に囲まれた地を離れ、都会の名門校に越境留学するような中学生に肩入れしてきた。

 

 戸郷翔征(巨人)を輩出した聖心ウルスラ学園の付属中学である聡明中の森は、同野球部の1期生だった。ゼロからスタートしたチームは快進撃をみせ、森が3年生となった昨夏に県下一の中学となり、全国大会にも出場した。中学時点で187cm、最速143キロ。そのスペックからも興味をそそられた。

 

 当時、森には20校近くの野球強豪校から声がかかったというが、彼が聡明中の選手でなければさらに増えただろう。というのも、聖心ウルスラ学園への内部進学が基本路線と思われていたからだ。

 

「小学校1年生で野球を始めた頃からプロ野球選手を夢見ていて、大阪桐蔭の試合もテレビで欠かさず観ていて憧れがありました。全国大会が終わったあと、西谷先生に声をかけていただいた。迷わず、桐蔭で野球をやろうと思いました」

 

メンバー唯一の「中学は軟式野球

 大阪桐蔭に入学する選手のほとんどが、中学2年生の秋から冬にかけての時期には決まっている。中3夏を迎える頃には、寮の部屋の関係上1学年約20人という枠は埋まっていることが多い。森の勧誘をここまで“待った”理由を西谷監督はこう話す。

 

「森は高校の付属中学に在籍している軟式の選手だったので、ボーイズリーグの選手のように早くからチーム関係者と話すことができないんです。中学の軟式野球が終わった時点で、(聡明中の)先生に『もし外に出る気持ちがあるならば本人と話をさせてもらいたい』とお願いした。すると『いくつかの学校に絞って検討している』ということだったので、見に行きました」

 

 そして森は大阪桐蔭への進学を決意した。

 

 陰ながら心配していたのは硬式球への対応だ。大阪桐蔭の1年生は、森以外、全員が硬式野球の出身者。森は中学野球を終えた一時期、宮崎の硬式野球チームで練習していたとはいえ、どうしても同級生から出遅れてしまうのではないか、と。それも、杞憂に終わる。

 

 今年6月1日にバンテリンドームで行われた招待試合の栄徳(愛知)戦で、森がマウンドに上がった。この日が初めてAチーム(いわゆる一軍)のメンバーに加わった日だった。森が再び話す。

 

「ちょっと僕も心配していましたけど、硬式球に慣れてきたら問題はなかった。軟式球は軽くて、硬式はちょっと重い。その分、ストレートが沈まないというか、ビシッといく感覚がある」

 

理想は「ロッテ佐々木朗希」

 桐蔭の寮で森は、中学時代に関西ナンバーワン投手と称された同級生の中野大虎と同部屋だ。同じようにプロを夢見る右の豪腕タイプ。ふたりを私生活から競わせたいという指導者の思惑も見え隠れする。

 

ブルペンでも横で投げて、お互いに悪いところがあったら言い合って、切磋琢磨しています。普段は仲良く、野球の時はバチバチ(笑)。1年生ですけど、2人で引っ張っていきたい」

 

 今夏のメンバーからは漏れたものの、新チームでは15番を背負ってベンチ入り。入学後に身長は2cm伸びて189cmに。体重は70kg台から85kgに。球速も現在はMAX151キロまで上昇した。カーブはブレーキの効いた縦に落ちるボールで、左打者の内をえぐるカットボールやスプリットも持ち球である。

 

 理想とする投手は、千葉ロッテの佐々木朗希。高校生のうちに、令和の怪物のように160キロを記録したい。

 

「バッターが分かっていても、バットに当たらないストレートが理想です。コースがアバウトでも、抑えていける自信があります。入学後、前田さんをはじめ、周りの投手を見て、すごいなとは思うんですけど……自分は自分と言い聞かせています(笑)。調子が悪くなると、左の肩が開きがちになってしまう。(投球動作中に片足で)立った時のバランスを大事にしています」

 

2年後…「選ばれるように頑張りたい」

 前田がドラフト指名された日、大阪桐蔭の1、2年生はグラウンドで練習していた。

 

 森は謙遜しながら、こんな未来を思い描いた。

 

「自分も2年後、必ず選ばれるように頑張りたいです」

 

 これから2年、大阪桐蔭の試合に足を運ぶ理由がまたひとつ増えた。