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高校野球あれこれ 第99号

センバツ2023】甲子園優勝メンバー「7人」残るも…仙台育英はなぜ“エースを先発させなかった”? 須江航監督が明かした「采配の真意」と「1つの後悔」

 

 仙台育英はベンチ入りメンバー18人のうち、7人が昨夏の全国制覇を経験していた。

 

「140キロクインテット」と呼ばれ、優勝を支えた豪華投手陣では現エースの高橋煌稀、湯田統真、仁田陽翔が残り、野手も現キャプテンの山田脩也ら4人が主力だった。

 

うちは12番目くらいだと思っていた

 今年のセンバツ。なかば当然のように「優勝候補」に挙げられていたタレント集団は、ベスト8で敗退した。

 

 監督の須江航は、この結果を出来過ぎと言わんばかりに受け止めている。

 

「これは本当に謙遜ではなく、優勝なんて簡単に考えられませんでしたから」

 

 世間が抱く“錯覚”を訂正するように、須江が「優勝できなかった」背景を説明する。

 

「ありがたいことに夏春連覇の権利を持っていたのはうちだけでしたから、センバツの優勝というのは大目標として掲げたいものではありましたけど、まだまだ全然。出場校の戦力を冷静に分析した時に、うちは12番目くらいだと思っていましたから」

 

 昨年の秋、仙台育英は東北大会を制し、各地区の優勝校だけが揃う明治神宮大会では1勝。この大会を制した大阪桐蔭に敗れはしたが4-5と接戦を演じた。

 

 このチームを支えているのが、2割7分9厘だった昨秋のチーム打率を補った仙台育英のストロングポイント、投手陣だ。

 

エースを先発させなかった理由

 昨秋のチーム防御率1.79のディフェンス力は、このセンバツでどのチームと対戦しても、何があっても自滅しないかどうか? 

 

 それは、須江にとっても挑戦だった。

 

「普通の起用なら、チームで一番、失点率の少ないエースが先発しますよね。そこから継投していって耐えて勝っていくものですが、それをしていては春に得られるものは何もないと思ったんです」

 

 PL学園時代に甲子園で歴代トップの13ホームランを記録した清原和博の次男、勝児が注目される初戦の慶應戦で、延長10回を戦い1失点。甲子園の地元である近畿勢との対戦となった龍谷大平安戦で1失点、報徳学園との準々決勝では5失点だった。

 

 このセンバツでの仙台育英は、言うなれば全試合がアウェーのような雰囲気で、慶應戦と報徳学園戦は延長戦だった。そんな接戦続きの大会で、経験豊富な3人だけでなく、甲子園初登板となる左腕の田中優飛と2年生右腕の佐々木広太郎を投入。秋に続きエースの高橋を全て救援で登板させた。

 

 須江が投手陣を総括する。

 

「全員をしかるべき場面で投げさせることがチャレンジだったし、そこを通らない限りは夏の連覇も見えてこないと考えていました。2年生の佐々木は龍谷大平安戦でマウンドを経験できましたし、その試合でも投げた田中は報徳学園戦の最後に打たれましたけど、現時点ではよく投げてくれたと思います」

 

スクイズすれば…報徳学園戦の悔い

 大会を通じて1失点だったエースの高橋、無失点に抑えた湯田が昨夏の経験値を生かした一方で、2試合に先発した最速147キロ左腕の仁田は2回1/3で3失点と、本来の力を発揮できなかった。とはいえ、監督の須江はこれを「課題」に挙げていない。それは、センバツでの取材で「本番で振るわなかっただけで、それ以外では持っている力を出してくれている」と、回答している通りである。

 

 挑戦は一定の手応えを掴めたと言えるのかもしれないが、須江は敗戦の原因を「監督の采配」だと言い切った。

 

 大きなところでそれは、攻撃面だった。

 

 チーム打率がセンバツ出場校中31番目だったように、攻撃が売りではないと監督自身も理解している。アウェーにも似た空気感のなか慶應戦をサヨナラでものにし、龍谷大平安戦では12安打したことに「現時点ではよくやった」と、目じりを下げるくらいだ。

 

 惜しむらくは報徳学園戦である。

 

 ノーアウト一、二塁から攻撃が始まるタイブレークに突入した同点の延長10回表。送りバントとヒットで1点を勝ち越し、なおも1アウト一、三塁の場面で打席に立ったピッチャーの田中にスクイズをさせなかった――。

 

 この判断を、須江は悔やんでいる。

 

「大会前から『強者に勝つにはタイブレークしかない』と思っていましたから。その展開に持ち込めたら確実に2点を取らなければいけなかったのに、結果的にやらなかった」

 

 あの場面、須江は報徳学園のマウンドに立っていた今朝丸裕喜の球質やスタミナを分析してきた上で、「フォアボールになるだろう」と睨んでいた。しかし、結果は見逃し三振。続くバッターも三振に倒れ、仙台育英は1点しか取れずに終わった。その裏に相手が2点を取り逆転サヨナラで敗れたことが、須江に悔恨を残したわけである。

 

「甲子園優勝」直後に語っていたこと

 敗戦後も今も、須江は自ら責任を負う。偽らざる本心には同時に、チームへの思慮深さも垣間見えるように思えた。

 

 東北勢初の偉業を経験する者が多く残る。「だから強い」と周囲は額面だけでチーム力を捉えがちだが、実情はそうではないのだ。

 

 優勝直後に須江は、すでに暗示していた。

 

今年(2022年夏)の優勝を成功体験にしてしまうと、そこからの1年が重くなるじゃないですか。過去と比較してしまうと、いろんな歪みが生まれたりして、勝つための推進力を失いかねないというか、彼らをとても不幸な1年にしてしまうので。そういう思いだけはさせたくないんですよ

 

 そして、今年のセンバツを振り返る須江は、チームの現在地をこのように明示している。

 

「まだまだ発展途上です。明確な成長をできるチームですから」

 

 全国制覇した「成功体験」などなく、センバツを戦えたことが「成長体験」となる。

 

 これが、2023年春の仙台育英だった。