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高校野球あれこれ 第121号

筑波山でなく富士山登る」

「目の前の3秒やりきる」…4強の土浦日大、躍進の理由

 

第105回全国高校野球選手権記念大会で、茨城県勢20年ぶりの4強入りを果たした土浦日大。この1年、選手や小菅勲監督は、全国で勝ち上がるための練習に本気で取り組み、それを着実に大舞台で披露した。

 

脅威の集中打

甲子園で1回に5得点以上の「ビッグイニング」を作り出したのは実に3度。チームの代名詞にもなった。専大松戸(千葉)戦では6点を追う展開で、三回に一挙5得点を挙げ、その後逆転。竜ヶ崎一や常総学院など長年県内の強豪校を率いてきた持丸修一監督は「あれだけ(バットを)振れるチームは初めてだ」と目を丸くした。

 

 2番打者の太刀川幸輝選手は「『目の前の3秒』をやり切れた結果」と明かす。たかが3秒、されど3秒。昨夏の県大会決勝でのサヨナラ負けをきっかけに生まれた合言葉は、短時間の集中で攻守に高いパフォーマンスを発揮できるという意識を選手に植え付けた。春からは3点ビハインドの状況を想定した実戦形式の練習も続け、小菅監督は「5万人の観衆の前でプレーする準備はできているか」と発破をかけてきた。

 

 大舞台での勝負度胸、劣勢に折れない心、抜群の集中力――。全ては日々の練習で積み重ねてきたものだった。躍進の要因を選手に尋ねても誰もが「やるべきことをやった結果」と同じ言葉を繰り返した。

 

指揮官の采配

初戦の上田西(長野)戦で小菅監督は同点の八回途中、延長タイブレイクを見据えて先発の藤本士生(しせい)投手から伊藤彩斗投手にスイッチ。藤本投手を一塁に残した。その意図は重圧のかかる延長戦で起用するため。狙い通り、延長十回に集中打で6得点し、再登板した藤本投手が1失点に抑えて勝ち切った。

 

 2回戦の九州国際大付(福岡)戦では右腕の小森勇凛(ゆうり)投手を先発に起用。春はエースナンバーを背負ったが不調に陥り、甲子園では「3番手」の位置づけだった。「殻を破ってほしい」との思いを込めて送り出した背番号18は、強力打線を5回1安打無失点に抑えた。不意をつかれた相手の楠城徹監督は「左(藤本投手)が来ると予想していたのに、右が先発してきて違う流れになった」とうなだれた。

 

快進撃の理由を問うと小菅監督は「筑波山ではなく、富士山を登るための準備をしてきた」と独特の言い回しで答えた。選手の活躍は、聖地での采配を幾度となくイメージしてきた成果だったのだろう。

 

「化けた」選手

 チームの躍進は、普段の努力に加え、大舞台での選手の成長も大きかった。

 

 九州国際大付戦で均衡を破る一発を放ったのは、練習を含めて高校で1本も本塁打を打ったことのない大井駿一郎選手。県大会では打率1割台だった右翼手の予想外の一発で、チームは勢いづいた。

 

 目標の8強を達成した日、小菅監督は選手たちに「監督としては満足している」と伝えた。「ここからどう意欲を保つべきか。自分たちで答えを見つけてほしい」。そんな思いからだった。選手で開いたミーティングでは、意見をぶつけ合うまでもなく「誰の目も死んでおらず、優勝を望んでいた」と塚原歩生真(ふうま)主将。チームは再び団結し、準々決勝では八戸学院光星(青森)を圧倒。小菅監督は「甲子園で(選手が)化けつつある」と表現した。

 

 「この先、きついことがあった時は甲子園を思い出したい」。太刀川選手の一言には重みがあった。頂点には届かなかったが、常に全力で、最高の仲間とともに味わった高揚感と達成感。敗れた準決勝後に宿舎で取材した土浦日大ナインの表情はすがすがしかった。