「サインばれているのかな」
仙台育英“じつは超不利だった”日程・相手…あの決勝前、須江航が初めて吐いた弱音「エネルギーが尽きてきました」
肌が弱いのだろう、日焼けで赤く腫れた顔がいつも以上に痛々しかった。
「そろそろエネルギーが尽きてきました。あと1試合ですけど、東北6県のみなさんや、宮城のみなさんは、明後日の2時、西の甲子園の方にパワーを送ってもらえたら、みなさんの気持ちを持って戦いたいと思います」
仙台育英の須江航は、決勝進出を決めた後のインタビューで、こう声を振り絞った。今大会、初めて吐いた「弱音」と言っていいかもしれない。
今まで見たどの監督とも違った
須江は今まで見たどの監督ともタイプが違った。どんな試合の後でも快活で、雄弁だった。そして、プラス思考の塊だった。
3回戦の履正社戦では、3回にエラーが3つも集中した。ただ、その回は幸いにも1失点でしのいだ。とはいえ、普通の指揮官だったら、次戦に向けて反省が口をつきそうなものだが須江はそうした素振りを微塵も見せなかった。
「あれだけミスをして1点しかとられなかった。奇跡みたいなものですよ。神様が勝てと言ってくれているのかと思いました」
続く準々決勝の花巻東戦は9-0のリードで迎えた9回裏、負けているチームに過度に肩入れする甲子園特有の球場の雰囲気も手伝い、打者一巡の猛攻に遭って4失点。大量リードに守られて逃げ切ったが、後味の悪さも残った。だが、須江はあくまで前向きだった。
「今日もいい経験をさせてもらいました。甲子園は最終回、やっぱりこういう雰囲気になる。それを経験できたというのが大きかったです」
どこまでもポジティブな姿勢を崩さない須江に、思わず、その理由を尋ねると、こんな答えが返って来た。
「夏だからです。夏が始まったら、怒ってもしょうがないので。楽しくやればいい」
大会1日目「第3試合」の過酷さ
この夏の仙台育英は、もっとも過酷なブロックを勝ち上がってきていた。初戦は大会1日目の第3試合だった。開幕戦以上に嫌われるところだ。というのも、第2試合ならまだ開会式のあと球場内の室内練習場で待機できるが、第3試合のチームは待機場所がないためいったん球場を離れなければならない。それがとにかく面倒なのだ。
仙台育英の日程的な不利は、2回戦以降も続いた。準決勝まで、第4試合、第1試合、第4試合、第1試合と、早い時間と遅い時間の試合が交互に続いた。
第1試合も第4試合も気温が比較的低いため、体への負担は小さいと言われる。ただ、第4試合は開始時間が読めないのと、ホテルに帰る時間が遅くなるため、体を休めるという意味ではなかなか難しい面もある。
「大ラッキー」と言い切った須江監督
今年の仙台育英の日程は、暑い時間を避けられるというメリット以上にデメリットの方が大きいように思われた。
しかし、そんな不運も須江はこう言って笑い飛ばした。
「去年から続く大ラッキーなんですよ。去年は全部、第1試合。今年は初戦も開始が遅れたので実質、第4試合のようなもので。あとは全部、第1か第4ですから。暑い時間帯の試合が1試合もなかったんですよ」
確かに、昨年の仙台育英は恵まれていた。2回戦からの登場というのも有利に働いたことだろう。日程に関して言えば、去年と今年では雲泥の差がある。しかし、須江は、それを「去年から続く大ラッキー」と称した。
そんな度が過ぎるほどポジティブな男が、準決勝を終え、思わずこぼしたのが冒頭の「エネルギーが尽きてきました」という本音だった。
いま思う「準優勝」の価値
今年の仙台育英は乗り越えなければならない相手チームも険しかった。1回戦から浦和学院、聖光学院、履正社、花巻東、神村学園、慶応と、名だたる強豪や勢いに乗るチームばかりだった。
しかも前大会王者ということで当然、マークも厳しかったはずだ。それに対しては須江も「どのチームも情報をすごく持っている。試合の中でも、サインがばれているのかなと思うこともあった」と苦心していた。
慶応の優勝は掛け値なしの快挙だった。だが、この条件下における仙台育英の準優勝は、少なくともそれと同等の偉業だった。
決勝で敗れたあと、須江に、どんなに疲れていても囲み取材で嫌な顔一つせずに対応できるのはどうしてなのかと聞いた。すると、間髪入れずにこう返された。
「疲れてないからです」
そのときはもうすでにいつもの須江に戻っていた。
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